Aぇの紅一点神出鬼没のお姫さま (ページ22)

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決断(前編) ページ22

( you side )

『もう一度言ってもらってもいいですか』

広くはない部屋に私の声が響いた。
特別大きな声を出したつもりはなかったけど、
嫌に大声に感じるのは周りが静かだからだろうか。

【黒系の服を着て事務所に集合してください】
マネージャーさんから来た連絡はそれだけで
詳細は何もわからなかった。
重要性もわからなくて、
かたくもラフでもない黒と白のワンピースを選んで
行き慣れた事務所の一室に来たのが１時間ほど前。

私の言葉に
先ほどとほとんど同じ説明をする弊社のちょっと偉い人。

大晴がＡぇからいなくなる。
事務所からもいなくなる。
これから残ったメンバーでどうするか、
いまから話し合ってほしい。

『どうして……』

小島「しろ」

声に出すつもりはなかったのに気がついたら口から出ていた。
なぜ？
なんで？
どうして？
大晴。
どこ？
７人、
６人。
これから……。
混乱する思考回路をどうにか静めようと
座っている膝の上に置いた手をぎゅっと握り込んだ。
隣に座る小島が
こちらを見ているのがわかるけど顔を見ることができなくて俯く。
今、メンバーと目を合わせてしまったら涙が零れそうだった。

説明をした偉い人やマネージャーさんは
いったんメンバーだけで話すように、と言って部屋を出ていく。

『……』

「……」

当たり前に重い空気の沈黙をやぶったのは正門だった。

正門「今すぐ考えをなんて
言われても難しいのはわかるけど、
話せるところから話そか、」

ぽつり、ぽつりと
１人づつ今言える考えを口にしていく。

５人にまわったあとで正門が
ずっと俯いて話しを聞くだけだった私に
「りり」と声をかけてきた。

『……っ』

何か言わなくちゃ、と思うのに上手く声が出なくて
「はくっ」と空気を下手に吸う音がなる。
まずい。
そう思った時には息が上手く出来なくて息苦しさを感じた。

正門「りり！」

私の状態にすぐに気がついた正門が、
座っていた椅子から音を立てて立ち上がる。
こちらに来ると、
座る私の隣にしゃがみこみ、
下から覗きこまれる形で目が合った。

正門「りり、俺の目ぇ見て。
大丈夫やから。ここにおるから大丈夫」

『……っ、はっ、』

正門の名前を呼びたいのに上手く音にならない。
それすら分かっているとでもいうふうに
正門は私の手を握り、
安心させるように私の目を見つめ続けてくれた。