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日付を跨いでいないとは言え、決して早いとは言えない時間。「ただいまー」って癖みたいに口にしたさっくんの声もいつもに比べれば小さめだった。

「お邪魔します…」

リビングの扉を開けてちょいちょいって手招きしてるさっくんに続いて部屋に入る。
すると、ダイニングに広げられたノートや教材が目に入った。

阿「お、いらっしゃいAちゃん」

「阿部ちゃん。こんばんは…突然ごめんね」

阿「んーん。佐久間もおかえり」

佐「ただいま」

やっぱりいいな。
「おかえり」も「ただいま」も。
座っててって言われて大人しく阿部ちゃんの前に座らせて貰うと、今日はなんと英語の勉強をしているらしい。

「阿部ちゃんって理科の先生だよね？」

阿「そうだよー」

「なんで英語？」

阿「単純に趣味なんだよね。勉強とか読書とか。
当たり前だけど自分の知らないことなんて腐るほどあるでしょ？新しい知識が増えていくのが楽しいなって。攻略していくみたいでさ」

佐「阿部ちゃんはゲームも上手いんだよ〜」

どーぞ！って目の前に置かれたのはシャチちゃんそっくりのあのマグカップで、カフェラテの良い香りがする。

佐「さっきのお返しね」

「ありがとう」

秘技！カフェラテ返し〜って笑ってるさっくん。無邪気で可愛い。

「そうだ。知らないことって言えばさ、ずっと、気になってたんだけどここのシェアハウスの名前？あの表札に書いてるのってなんて読むの？」

阿「ああ。あれはね、アンソレイユ。フランス語で"日当たりのいい"とか"晴れた"って意味の形容詞。ここでは"陽だまり"って意味で使ってるらしいよ。」

「陽だまり…」

それって、

佐「Aちゃんの絶対条件、満たしてんね」

私が今思ったことをさっくんがそのまま言葉にした。
にゃおんって甘えた声がして、ふわふわが膝の上に飛び乗って来る。

「ツナ…」

佐「良かったねぇツナ。また会えて。」

「おかえり」も「ただいま」も。
湯気のたつカフェラテも。
私に向けられる眼差しも。
膝の上のふわふわも。
全部があったかいこの家にぴったりの名前だと思った。

岩「お…」

「あ…こんばんは」

岩「こんばんは」

リビングのドアが開いて、動きやすそうな服装をしたひかるさんが外から帰って来た。
あの日の朝みたいに、やっぱりどこかくすぐったそうに笑って挨拶を返してくれるひかるさん。

ここに、帰って来たいな。
素直にそう思った。